チームからの指示により意図的に順位を入れ替えるチームオーダーは、F1で認められることはなく、「規制」される。F1の統括団体FIA(国際自動車連盟)のジャン・トッド会長が語った。
もともとF1ではチームオーダーが禁止されていたが、遠まわしな表現を使ったチームオーダーが横行しているのが現実だった。しかし2010年のドイツGPでフェラーリは、所属するフェリペ・マッサに対して、次のように微妙な表現でチームメートのフェルナンド・アロンソへ優勝を譲るよう指示した。
「フェルナンドの方が君より速い。理解したか? このメッセージの意味が分かるな?」
これをスチュワードはチームオーダーと判断し、フェラーリへ罰金を科し、さらなる処分を科すか、その判断を世界モータースポーツ評議会(WMSC)に委ねた。しかし、WMSCはさらなる処分を科さなかったことから、罰金さえ払えばチームオーダーを「買える」として、F1でのチームオーダー問題が大きな話題になっていた。
「個人的に、チームオーダーに反対ではない。だが、うそをつくことに対しては、厳しい立場をとる」とトッドはインタビューの中で語った。
トッドはさらに、間接的な表現を使ったチームオーダーは「観客やメディアを欺く行為」であり、チームやドライバーがその後うそをつく必要性が出てくると加えた。
そしてトッドは、『La Stampa(ラ・スタンパ)』へこう続ける。
「チームオーダーは2002年の一件で禁止されているが、何度”ごまかした”形で使われてきたのか考えてみるといい。フェラーリが(ドイツGPで)やったこととの違いは、表現のみだ」
「これは、レギュレーションに対する挑戦だ
そして、FIAがチームオーダーを禁じるルールを廃止する可能性はあるのか質問されると、トッドは次のように答えた。
「規制されることになる」
「F1はチームスポーツであり、各チームは自分たちの行動に責任を持たなければならない。うそや“燃料を節約しろ”といった暗号のメッセージを許すことはない」
こういった厳しい姿勢を見せるトッドだが、チームオーダーが禁止される原因になったのがトッドだった。2002年のオーストリアGPで、当時フェラーリのチーム責任者を務めていたトッドは、当時の所属ドライバーであるルーベンス・バリチェロに対し、チームメートのミハエル・シューマッハに優勝を譲るよう指示した。
このときのトッドの指示は「選手権のために、マイケル(シューマッハ)に抜かせろ」という直接的なものだった。
「何も言う必要などないはずだった」
「レース前から、もしピットストップ後に彼(バリチェロ)が前にいたら、文句を言わずにシューマッハに抜かせることになっていた」
「そういう約束だったんだ。ドライバーらも、ある種の判断を受け入れるために報酬を得ている」
「だが、彼は私に50回も指示させたうえ、最終コーナーでようやく動いた。観客はブーイングし、シューマッハは表彰台の真ん中に彼(バリチェロ)を立たせた。そのせいでフェラーリは、(表彰式の)手順に違反したとして50万ドルの罰金を科された」とトッドは当時を振り返る。
この件を後悔しているか質問されたトッドは「イエス」と認め、こう続けた。
「後になって思えば、避けられることだった。シューマッハはいずれにしろチャンピオンになっていたのだからね」
「だが、数ポイント差でわれわれが王座を逃していれば、後悔はさらに大きなものになっていただろう」